保存料として広く使われている「ソルビン酸」
腐敗を防ぎ、微生物の繁殖を防ぐ役割を持つ一方、発がん性が指摘されるなど悪いイメージも持たれています。
本記事では、ソルビン酸が実際どのくらい危険なのかを、含有量等を用いて解説します。
そもそもソルビン酸とは?
ソルビン酸は保存料として広く用いられている食品添加物で、細菌やカビの繁殖を防ぎます。
加工食品に多く含まれており、ハムやすり身には高い確率で含まれています。
ソルビン酸(クリックで詳細)
ソルビン酸とソルビン酸Kの違い(クリックで詳細)
ソルビン酸カリウム
ソルビン酸とソルビン酸カリウムの間に大きな違いはありません。ソルビン酸のOH基のHがKに置換したものがソルビン酸カリウムです。
ソルビン酸カリウムは水に溶けやすいため、水に溶けやすい方が製造上都合の良いときにソルビン酸カリウムが使用されます。
健康被害はどちらも報告されていないため、危険性は変わらないと考えられています。
ソルビン酸の危険性
ソルビン酸には発がん性があるとされ、危険性が議論されています。ここでは、実際にどれだけ危険性があるのかを解説します。
危険性はほぼない
結論から言うと、添加物として摂取する程度であれば危険性はほぼありません。
多量に摂取することで体への危険性が認められている物質には、ADI(一日摂取許容量)が設定されています。
一日摂取許容量(ADI)
ある物質について、人が生涯その物質を毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量のこと。※厚生労働省より
ソルビン酸にもADIは設定されており、その量は25 mg/kgです。つまり、体重50 kgの人であればADIは1250 mgになります。
このADIは、無毒性量の100分の1の値と決められています。
無毒性量(NOAEL)
ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて毒性試験を行ったとき、有害な影響が観察されなかった最大の投与量のこと。※厚生労働省より
つまり、ADI(一日摂取許容量)の100倍まで摂取しても悪影響はでないということが、これらの定義からわかります。
日本人の一日当たりの平均ソルビン酸摂取量は4.407 mgと言われています。この量は、ADIの何パーセントにあたるのかを計算してみましょう。
20歳の平均体重(58.6 kg)で計算すると、ADIは1465 mgということがわかります。
(4.407mg/1465mg)*100=0.3%
つまり、日本人のソルビン酸の平均摂取量はADIの0.3%ということがわかります。
実際に害が出る量はADIの100倍です。計算上、日本人の平均ソルビン酸の33243倍摂らなければ、健康に害がでることはありません。これはソルビン酸が使用可能上限量まで添加されたハム75.5 kgに相当します。
毎日ハム75.5 kgを摂ることは現実的に考えられません。よって、ソルビン酸の危険性はほぼないと言えます。
特殊な状況下でしか発がん性物質は生成しない
ソルビン酸は安全性の高い物質です。しかし、特殊な状況下でソルビン酸は発がん性物質に変化するという報告がされています。
この報告が間違った形で広まったため、ソルビン酸=発がん性物質という解釈につながったのではないかと考えられます。
実際、ソルビン酸は発がん性に変化するのですが、その条件は「亜硝酸ナトリウム溶液をソルビン酸懸濁液に室温で加え、90℃の湯煎で1時間加熱する」というものです。亜硝酸ナトリウムはソルビン酸と同じ商品に添加されることがありますが、食品中や体内でそのような条件にさらされることはありません。
その報告がされた論文でも、このような条件が成立することがないため、ソルビン酸の危険性は低いと結論付けています。
問題とみられる遺伝毒性はない
ソルビン酸の遺伝毒性については多くの研究が行われており、問題となる遺伝毒性はないと明らかになっています。
一部の研究報告では突然変異が見られましたが、ソルビン酸が多量に摂取された場合のみでした。少なくとも、日常的に摂取する量で遺伝毒性が出ることはないと考えられています。
遺伝毒性に関する研究結果(クリックで詳細)
トリプトファン
ソルビン酸
陰性
- DNA 損傷試験
- 復帰突然変異試験
- 遺伝子突然変異試験
- 不定期 DNA 合成(UDS)試験
- DNA 切断試験
- in vivo SCE 試験
- 小核試験
陽性
※最高濃度でのみ陽性
ソルビン酸カリウム
陰性
- 復帰突然変異試験
- 遺伝子突然変異試験
- DNA 切断試験
- チャイニーズ・ハムスター培養細胞株(CHO)を用いた染色体異常試験・SCE 試験
陽性
- チャイニーズ・ハムスター培養細胞株(Don)を用いた染色体異常試験・SCE 試験
- チャイニーズ・ハムスター培養細胞株(V79)を用いた染色体異常試験・SCE 試験
染色体異常:20 mM以上で増加
SCE:10 mM以上で統計学的に有意な増加
染色体異常:20,000 μg/mL でのみ有意に増加
SCE:10,000 μg/mL 以上で統計学的に有意な増加
まれにアレルギー反応が出る
ヒトに行った実験により、乳酸に過敏な人はソルビン酸に対して過敏性反応を起こしやすいことが明らかになっています。
研究の数が少ないため詳しいことは明らかになっていませんが、乳酸に過敏な方や食品添加物に対してのアレルギー反応を持っている方は注意してください。
ソルビン酸は実際摂っても良い?
これまでソルビン酸の危険性について紹介してきましたが、結論「食品に含まれている量であれば摂っても問題なし」です。
しかし、乳酸に過敏な方や添加物に対してアレルギー反応を起こしやすい方は、まれに過敏症状を引き起こすこともあるので、身体に合わないようであれば摂取を控えるようにしてください。
ソルビン酸の効果・役割
ソルビン酸の主な役割は「防腐効果」です。細菌やカビの増殖を抑える効果を持っています。
ソルビン酸は、細胞膜を通り抜け、細菌の代謝経路を防いで増殖を抑える役割を持っています。この役割を利用して、食品中の細菌の増殖を防いでいます。
ソルビン酸は食中毒の危険性を大幅に下げる
ソルビン酸をはじめとする食品添加物は「悪」のイメージがありますが、それぞれ意味があって入れられています。
ソルビン酸は「保存料」として添加されています。ここでは、保存料が食品中でどのような働きをしているのかを見ていきましょう。
以下の表は、ソーセージの腐敗までの時間です。
| 腐敗までの時間(30℃下) |
無添加 | 24時間以内 |
ソルビン酸添加(使用基準量) | 115時間 |
ソルビン酸を添加すると腐敗までの時間が約5倍になることがわかります。
次に、かまぼこを10℃で140時間放置した時の細菌変化数です。
| 開始時の食中毒菌の数 | 140時間後の食中毒菌の数 |
無添加 | 1,000 | 1,000,000,000 |
ソルビン酸添加 | 1,000 | 1,000 |
ソルビン酸を添加したものは細菌数がほぼ変わっていません。
一方無添加のものは、細菌が開始時の10万倍に増えています。食中毒の危険ラインは100,000と言われていますから、140時間後にはその1000倍となっていることがわかります。
ソルビン酸自体の危険性と、ソルビン酸を加えずに食中毒に罹る危険性を比べると、明らかにソルビン酸を加えた方がメリットが大きいことがわかります。
参考文献
Junichi OMINAMI, Taro OISHI,.et al. The Influence of Risk and Benefit Information about Preservatives on Consumer Behaviors
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金山龍男「水産ねり製品・畜肉製品の保存性向上と殺菌対策」Vol.23 表1
ソルビン酸が添加されている食品
ほぼ全ての加工食品に含まれています。
ソルビン酸が添加されている主な食品
魚介乾製品、食肉製品、チーズ、マーガリン、スープ、ジャム、ケチャップ、雑酒、みそ、漬物
ソルビン酸の理論最大摂取量(食事から一日に摂取する理論上最大の量)は99.5 mgとされています。ADI(一日摂取許容量)の8.0%ほどの値ですので、意識して避けなくても問題ない量です。
【まとめ】ソルビン酸の危険性について
ソルビン酸は保存料として細菌やカビの増殖を防ぎ、食中毒を予防する食品添加物です。
メディアでは発がん性が指摘されていますが、体内で発がん性物質に変換するとは考えられないため、現時点では安全な添加物と言えるでしょう。
健康に害が出る量を摂取することは極めて困難なため、特に意識して控えるような添加物でもありません。
しかし、乳酸に過敏な方や添加物に対して敏感な方の中には稀に過敏症状を起こす方もいるようです。思い当たる方は注意するようにしてください。
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