「硝酸塩は食べても大丈夫なの?」
「亜硝酸ナトリウムの発がん性は?」
近年、安全性が議論されている発色剤。ガンなどの疾病リスクを上げるのではないかと言われており、これらを使用していない無添加の食品が増えてきました。
本記事では、亜硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなどの発色剤が実際どれだけ危ないのか、どんな食品にどれだけ含まれているのかを解説します。
後半では、実際にどれだけ食べていいのかを具体的な食品を用いて図示。亜硝酸塩が含まれている食品と含有量も表にまとめています。
最後まで読んでいただければ、亜硝酸塩の危険性や摂っても良い量、なぜ含まれているかまでお分かりいただけます。
そもそも亜硝酸塩とは?
亜硝酸塩は、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸〔NO₂⁻〕を含む物質のことです。発色剤としてベーコンやソーセージなどの加工肉に使われています。
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亜硝酸塩
亜硝酸塩は、亜硝酸〔NO₂⁻〕をもつ塩のことです。代表的な物質に、亜硝酸ナトリウム〔NaNO₂〕があります。
亜硝酸塩は肉中の乳酸と反応して亜硝酸〔HNO₂〕となり、還元されることで一酸化窒素〔NO〕になります。一酸化窒素は、食肉中の色素であるミオグロビンやヘモグロビンと結びつき、食肉の色を鮮赤色に保つ作用があります。
普通、食肉は加熱すると褐色に変化しますが、亜硝酸塩と色素が結びついた状態で加熱するとピンク色になります。ハムやベーコンがピンク色のまま食べられるのはこのためです。
腐敗を見落としにくくするため、生鮮肉や鮮魚介類には使用が禁止されています。
同様の効果を示す硝酸塩〔xNO₃〕も発色剤としてよく併用されます。一部の硝酸塩は、口内や胃の中で還元されて亜硝酸塩になります。
硝酸塩・亜硝酸塩の効果
- 食欲をそそる鮮やかな色を保つ
- 肉特有の獣臭さを取り除く
- 熟成後の風味を良くする
- ボツリヌス菌の増殖を抑制する
このように、見た目だけでなく、安全性・味も良くする添加物です。
発色剤について
「発色剤」と呼ばれているため、発色を良くするためだけに入れていると思われがちですが、実際は腐敗の抑制や風味の改善のために添加されていることがほとんどです。
主な発色剤
- 亜硝酸ナトリウム〔NaNO₃〕
- 硝酸ナトリウム〔NaNO₂〕
- 硝酸カリウム〔KNO₃〕
ADI(一日摂取許容量=一日に摂っても良いとされている量)や危険度は異なりますが、同じ発色剤として使用されています。
どの物質も、メトヘモグロビン血症や発ガン性物質であるニトロソ化合物の生成に関与していると考えられており、大量に摂取した場合は死に至ります。
しかし、危険な食中毒菌であるボツリヌス菌の増殖を防ぐことができるため、法令の範囲内で多くの加工肉に使用されています。
【一覧】亜硝酸塩・硝酸塩の食品別含有量
ここからは、実際にどの食品にどれだけの亜硝酸塩・硝酸塩が含まれているのかをご紹介します。ADI(一日摂取許容量)に対しての割合も記載しています。
ADIとは?
生涯にわたり、毎日摂取し続けても影響が出ないと考えられる量。
実際に害が出る100分の1の量に設定されている。
硝酸塩のADI:5mg/kg、硝酸根:3.7mg/kg(50kgの人のADI:185mg)
亜硝酸塩のADI:0.07mg/kg 亜硝酸根:0.07mg/kg(50kgの人のADI:3.5mg)
硝酸塩の食品別含有量
硝酸塩のADI:5mg/kg、硝酸根:3.7mg/kg(50kgの人のADI:185mg)
食品名 | 100g当たりの硝酸塩量(mg) | ADI比(%) |
小松菜 | 430 | 232 |
ほうれん草 | 240 | 130 |
大根 | 150 | 81 |
白菜 | 110 | 59 |
レタス | 110 | 59 |
キャベツ | 70 | 38 |
ナス | 33 | 18 |
きゅうり | 18 | 9.7 |
トマト | 2.4 | 1.3 |
玉ねぎ | 0.7 | 0.4 |
硝酸塩が多く含まれている食品
食品名 | 100g当たりの硝酸塩量(mg) | ADI比(%) |
パクチョイ | 820 | 443 |
ハスイモ | 550 | 297 |
ツマミナ | 460 | 249 |
小松菜 | 430 | 232 |
チンゲン菜 | 400 | 216 |
春菊 | 310 | 168 |
三つ葉 | 310 | 168 |
セロリ | 300 | 162 |
硝酸銀は葉菜類に多く含まれています。一般的な硝酸銀の摂取内訳は野菜が50~90%と、食品添加物よりも野菜から摂取する量の方が多いと言われています。
亜硝酸塩の食品別含有量
亜硝酸塩のADI:0.07mg/kg 亜硝酸根:0.07mg/kg(50kgの人のADI:3.5mg)
食品名 | 100g当たりの亜硝酸塩量(mg) | ADI比(%) |
ちくわ | 0.7 | 20 |
ベーコン | 0.58 | 17 |
きゅうり | 0.32 | 9.1 |
魚肉ソーセージ | 0.2 | 5.7 |
ポークソーセージ | 0.05 | 1.4 |
焼きかまぼこ | 0.06 | 0.17 |
※複数の研究データから引用しているため、有効桁が統一されていません。
食品会社によっては、法令より厳しい独自の基準で添加量を制限しているところもあるので、現在はADIまで摂ることの方が難しいです。
参考文献
Tsuyako T. Content of Nitrite in Ham,Sausage and Bacon on the Market. September 24,1986
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国立医薬品食品衛生研究所
【図示】実際に硝酸塩や亜硝酸塩はどれだけ摂ってもいいの?
亜硝酸塩を多く含む食品を集めてみました。
これだけの食品を全て摂っても、亜硝酸塩摂取量は50kgの人のADIの94.2%。この100倍摂ってやっと害が出るか出ないか程度ですので、亜硝酸塩の摂取量は気にしなくて良いと言えるでしょう。
亜硝酸塩はADIを超えないことが多いですが、野菜に多く含まれる硝酸塩は、ADI付近まで摂っている方が多くいます。
しかし、野菜を摂るとガンのリスクが下がることは、膨大な研究によって確認されており、硝酸塩の量を抑えるために野菜を減らしてしまうと、かえってガンや疾病のリスクが上がります。
そもそもADIは、実際に害が出る100分の1の量に設定されています。ADIを少し超えたくらいでは、健康被害はほぼでません。
もちろん、避けることができる時には避けたいですが、そこまで多量摂取が懸念されている添加物でもありません。毎日ベーコンやハムを食べている方でも、気にすることはないでしょう。
亜硝酸塩や硝酸塩はなぜ使われる?【リスクのトレードオフ】
亜硝酸塩・硝酸塩は、”発色剤”と呼ばれているくらいですから、もちろん見た目を良くするためにも使用されています。
しかし、多くの食品に添加されている理由は「ボツリヌス菌の増殖抑制効果」があるからです。ボツリヌス菌はサリンの20万倍の毒を持つ食中毒菌。500gあれば全人類が滅亡すると言われている非常に怖い菌です。
サルモネラ菌は嫌気環境(酸素がない環境)でも繁殖するため、ハムやベーコンによく使われている密封パックの中でも活動し、毒素を作り出します。
もちろん、亜硝酸塩や硝酸塩は摂らないに越したことはありませんが、食中毒の危険性を考えると、「微量な発色剤を摂取する代わりにサルモネラ菌の繁殖を抑える」の方があらゆる疾病のリスクははるかに低くなります。
これは、小さなリスクを取って大きなリスクを除くという「リスクのトレードオフ」という考え方です。これを考慮せずに無添加で食品を作った結果、食中毒事件に発展したという例が多数起きています。
発色剤という名前から勘違いされがちですが、亜硝酸塩や硝酸塩は、私たちの体を守るために使われているのです。
【まとめ】亜硝酸塩が多く含まれる食品について
本記事では、亜硝酸塩・硝酸塩について解説してきました。
亜硝酸塩は、添加物としても使用されますが、野菜に多く含まれる硝酸塩が体内で還元されることによっても生成します。
ハムやベーコンなどの加工肉に発色剤として含まれていますが、見た目を良くするだけでなく、危険な食中毒菌の繁殖を抑えてくれています。また、摂りすぎが指摘されている添加物ではないので、加工肉を毎日食べるくらいで中毒症状がでる確率はほぼゼロです。
食品添加物は上手に付き合うことで私たちの食を豊かにしてくれます。正しい知識をつけて、より「食」を楽しみましょう。
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